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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)177号 判決

原告 酒井武三郎

被告 日本通運株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(一)  当事者の申立

(1)  原告

「被告は原告に対し金六〇万円及びこれに対する昭和二九年六月一六日からその支払のすむまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(2)  被告

「主文第一、二項と同旨」の判決を求める。

(二)  当事者の主張事実

(1)  原告の請求原因事実

被告は運送業並びに倉庫業などを営む者であるところ、昭和二八年一一月二〇日石田勲から織物レース五個(以下本件物件という)の寄託をうけ、その請求によつて別紙目録記載の倉荷証券(以下本件証券という)を発行した。ところで右石田勲は同年一二月一五日原告に対して本件証券の裏書をなし本件物件を譲渡した。そこで原告は被告に対し本件物件の所有者として本件証券を呈示した上これが引渡を求めたところ、被告においては本件物件は昭和二九年六月一五日頃喪失したと称しその請求に応じない。そうすると被告は倉庫営業者として商法第六一七条により原告に対し原告が本件物件の滅失に因つて蒙つた損害を賠償しなければならない筋合になるところ、本件物件の価額は金六〇万円であることその保険金額によつて明らかであるから、被告は原告に対し金六〇万円及びこれに対する昭和二九年六月一六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務がある。よつてここに原告は被告に対しその義務の履行を求めるため本訴に及んだ。

(2)  右に対する被告の答弁(抗弁を含む)

(イ)  原告主張の事実は、本件物件の価額が金六〇万円であるとする点を除き、すべて認める。

(ロ)  しかしながら本件物件が滅失したのは次のような事情に因るものであつて、それは被告の責に帰すべからざる事由に因るものということができるから、被告においてこれが損害賠償の責任を負わなければならないいわれは全くない。即ち、被告が石田勲から本件物件の寄託をうけて預り保管していたところ、昭和二九年一月二二日国家地方警察兵庫県宝塚地区警察署司法警察員が宝塚簡易裁判所裁判官発布に係る同日附捜索差押許可状を携帯した上、本件物件を保管していた被告会社川西池田営業所を訪れ、本件物件を含む一一〇個の貨物につき押収をした上、同営業所長に対しこれが保管を命じた。そしてその後同年四月一二日になつて本件物件は被告に対し仮還付になつたのであるが、更にそれより以前の同月一〇日神戸地方裁判所伊丹支部執行吏が右営業所に来り、同支部裁判官が同月九日に発した「本件物件に対する被申請人の占有を解き申請人の委任する執行吏にこれが保管を命ずる」旨の申請人株式会社今西商店被申請人被告間の仮処分決定正本に基き、その仮処分執行を済ましていた。ところで右執行吏は同年五月二一日申請人から申出があつたと称し、本件物件を右営業所から搬出した上、神戸市生田区下山手通八丁目四三二番地橋岡正をその監守人に選任し同人をして保管せしめるに至つた。その内同年六月七日になつて右伊丹支部裁判官は「申請人の委任する執行吏は本件物件を競売により換価すること」なる旨の換価命令を発したので、前記執行吏はそれに基き同月一五日本件物件の競売を行い、その結果これを他に売却して仕舞つたのであつて、ここに遂に本件物件は喪失するに至つたのである。

以上のとおり被告が本件物件を喪失したのは、警察若しくは、裁判所など国家機関の公権力によつて終始その占有を奪われ、遂に国家の執行機関によつて滅失させられたということに因るのであるから、その間において被告が直接それを妨げることの許されないことは勿論であるが、しかもなお被告としてはそれらの手続進行中において倉庫営業者としてなすべきことは充分に尽しているのである。即ち、先ず右仮処分の執行をうけるや、当時被告において判明していた限度における本件倉荷証券の所持人即ち寄託者石田勲の代理人樋口政治(当時石田勲は失踪して所在不明であり、右樋口がその整理担当者となつていた)に対し、昭和二九年四月二三日附書面で以てその事実を通知し、その書面は翌二四日同人に到達した。また執行吏が前記保管替を行うや、同年六月一日附書面で以て右同人に対しその旨を通告し、その書面は翌二日に到達している。更に伊丹支部裁判官が右換価命令を発するや、当時においては既に本件倉荷証券所持人が原告であることを被告も知るようになつていたので、同年六月一一日附書面で以て原告に対しその旨を通告しておいたのであり、その書面は翌一二日原告に到達している。そしてそれのみならず更に被告は積極的に同月一五日神戸地方裁判所伊丹支部に対し右仮処分決定並びに換価命令に対するそれぞれの異議申立さえも行い、それとともに換価命令執行停止の申請をなしたところ、同支部裁判官は同月一八日金二六万円の保証を条件としてこれが執行停止決定をした。そこで被告は即日その供託をして担当執行吏役場に該決定正本を提出しその執行の停止を求めた。ところが担当執行吏は不都合にも民事訴訟法中の強制執行関係の規定並びに執行吏執行等手続規則に違反し、前記今西商店の請託を容れて、競売の公告もせず、また所定期間もおかず、更には仮処分債務者たる被告に対する競売期日の通知をもせず、同執行吏役場の事務員にすら秘して、既に同月一五日これが競売を了えて何人かに売却して仕舞つていた関係上、遂にその換価処分を防ぐことができなかつた次第である。なおまた一方原告としても被告からの通知により自ら右伊丹支部に対し前記今西商店を相手方として本件物件に対する第三者異議の訴を提起し、その強制執行停止決定及び強制執行取消決定をうけるとともに、被告の提起した前記異議申立にも当事者参加してその権利の保護に努めたのである。しかしそれらすべての努力にも拘らず、遂に右換価処分を未然に防止することはできなかつたのであつて、その意味からすると、本件物件の滅失はまさに不可抗力に因るものと称さるべきである。従つて現在被告がその倉荷証券所持人である原告に対し本件物件を引渡し得ないとしても、それは何ら被告の責に帰すべき事由に因るものではないから、被告が原告に対しこれが損害の賠償をすべき筋合でないこと勿論である。

(ハ)  なお若し仮りに右主張が理由がないとしても、本件倉荷証券には「抗拒又は回避することのできない災厄、事故、命令、処置、又は保全行為によつて直接と間接とを問わず生じた損害、その他被告又はその使用人の故意又は重大な過失に直接原因しない損害については、被告においてその責に任じない」旨が記載されていて、被告と証券所持人たる原告との間においてはそのとおりの特約がなされているところ、本件の損害は該特約によつて被告が免責されるべき性質のものであるから、被告としては原告に対し何らこれが損害の賠償をすべき筋合でないこと明白である。

(ニ)  なお若し仮りに右主張が失当であるとしても、本件物件の滅失に因る原告の損害が金六〇万円であることは否認する。なるほど本件物件に付けられた火災保険金額が金六〇万円であることは認めるけれども、それは決して本件物件の価額が金六〇万円に相当することを意味するものではない。蓋し該金額は石田勲が被告に本件物件を寄託するに際し、火災保険契約締結上の保険金額として被告にその旨を表示したから、被告においてそのとおりの取扱をしたに止まり、決して被告が本件物件の価額はその金額であるということを承認したわけのものではないからである。

(ホ)  以上の理由によつて、被告としては原告の請求にたやすく応ずることができない。

(3)  被告の右答弁に対する原告の主張

(イ)  被告主張右(ロ)の事実の内、司法警察員による本件物件の押収関係、及び被告申請に係る昭和二九年六月一八日附執行停止決定の保証金額の点についてはそれぞれ不知であるが、その余の各事実はすべて認める。しかしながら被告がその主張のような事情の下において主張のとおりの行為をしたことのみを以て、倉庫営業者としてなすべき事柄を充分に尽したとすることは争う。

元来原告は昭和二八年一二月一五日石田勲から本件倉荷証券の裏書譲渡をうけたのであるが、昭和二九年一月二〇日に先ず浜田嘉夫を代理人として本件物件の保管場所たる被告会社川西池田営業所に赴かしめ、本件証券を呈示して本件物件の引渡を求めたところ、被告においては責任者不在の事由を以てそれを拒絶し、更に昭和二九年一月末頃妻酒井千代を代理人として同じく証券を呈示してこれが引渡を求めたところ、警察官による押収を理由に被告はその請求を拒絶し、次いで同年二月中旬頃原告自ら証券を呈示して引渡を求めたにも拘らず、被告においてはそれを拒んだという経過を辿つているのである。そうすると被告は本件物件が仮処分の執行をうけた昭和二九年四月一〇日当時には既に本件証券の所持人が原告であることを知つていたわけであるにも拘らず、原告に対して当該事実の通告を怠り、またその仮処分の執行に際しても、本件物件についてはさきに倉荷証券が発行されているのであるから、当該証券と引換でなければ本件物件の引渡を求め得られない事由をわきまえ、申請人たる株式会社今西商店に対しその被保全権利を質するとともに、機を失せずこれに対する異議申立をして本件物件の保全を計るべきであるにも拘らず、被告においてはこれが適切な処置を誤り、遂に本件物件の喪失という結果を惹起したのである。殊に昭和二九年五月二一日執行吏が保管替を行つた時においては、被告はそれまで原告に対し仮処分の執行はうけてもその営業所外に搬出させるようなことはしない旨を言明していたのであるから、即刻原告に対しその旨通知すべきであるにも拘らずこれを怠り、同年六月七日換価命令が出るに及んで急遽原告に対しそれを通告してきたのであるが、時既におそく、原告のなしたすべての努力にも拘らず、遂に本件物件は他に売却されて仕舞つた次第である。以上によると被告は倉庫営業者として払うべき注意を怠り、因つて本件物件滅失の結果を生ぜしめたのであるから、当然被告としては原告に対しこれが損害賠償の責任を負うべき筋合のものである。

(ロ)  被告主張右(ハ)の事実の内、その主張のとおりの文言が本件証券に記載されていることは認める。しかしながらそのような約定は倉荷証券の流通を阻害する性質を有するものであるから、法律上無効と解すべきである。

(ハ)  また本件物件の価額は宜しく金六〇万円とすべきである。即ち、原告は石田勲から本件証券の裏書譲渡をうけるに当り、同人において本件物件は金六〇万円以上の価額があり、被告もまた金六〇万円と認めて火災保険を付けた旨を言明したので、そのように考えて取引したのみならず、被告において保険金額金六〇万円と記載した本件倉荷証券を発行した以上、被告の如き全国的規模において営業をなし且つ内部規制も厳格な会社が法律上禁止されている超過保険を締結するなどとはおよそ考えられないところであるから、被告としても本件物件を金六〇万円以上の価額を有するものと認めていたことは疑がない。若しそうでないとしても、今更被告においてそれが金六〇万円の価額を有しないなどと主張することは、所謂行為禁反言の法理に違反し、到底許さるべきものではない。

(ニ)  以上のとおりであるから、被告主張の抗弁はすべて失当である。

(三)  当事者の立証

(1)  原告

甲第一乃至第三号証の提出、証人浜田嘉夫、同酒井千代、同大北治郎、同薬師徳市、同藤崎梅太郎、同坪田照治の各証言、及び原告本人訊問の結果の援用、乙第一及び第四号証の成立はいずれも不知、第三号証、第一一及び第一二号証、第一三号証の一及び二、第一四号証はいずれも官署作成部分の成立は認めるけれども、その余の部分の成立は不知、その余の乙号各証の成立はすべて認める。

(2)  被告

乙第一乃至第一二号証、第一三号証の一及び二、第一四乃至第一九号証の提出、甲号各証の成立はすべて認め、第一号証を利益に援用する。

理由

(一)  原告主張の請求原因事実は、本件物件の価額の点を除き、すべて当事者間において争がない。

(二)  よつて被告の抗弁について考えてみよう。先ず被告主張の前記(ロ)の事実は、その内司法警察員による本件物件の押収関係並びに被告申請に係る昭和二九年六月一八日附執行停止決定の保証金額の点を除き、すべて当事者間において争がない。そして右争のない事実と、成立について争のない乙第二号証、第五乃至第一〇号証、第一五乃至第一九号証、いずれも官署作成部分の成立について争がなく、その余の部分については本件弁論の全趣旨によつてすべて真正に成立したと認める乙第三号証、第一一乃至第一四号証に、証人大北治郎、同浜田嘉夫、同酒井千代の各証言、及び原告本人訊問の結果とを綜合すると、本件物件の滅失に関する事情経過は次のようなものであることを認めることができる。即ち、

(イ)  昭和二八年一一月二〇日石田勲が被告に対し本件物件を寄託し、被告から本件倉荷証券の発行をうけたこと

(ロ)  同年一二月二五日右石田勲が原告に対し本件証券の裏書をなし、以て本件物件を譲渡したこと

(ハ)  昭和二九年一月二二日国家地方警察兵庫県宝塚地区警察署司法警察員が、宝塚簡易裁判所裁判官発布に係る捜索差押許可状に基き、本件物件の保管場所である被告会社川西池田営業所において本件物件の押収をなし、爾後同営業所長に対しこれが保管を命じたこと、及び当日原告方店員浜田嘉夫は原告の命に依り右押収に立会すべく右営業所に赴いたが、既に押収手続完了後且つ被告の営業時間後であつたので、格別何ら得るところがなかつたこと

(ニ)  同月未頃原告の妻酒井千代が原告の代理人として右営業所に赴き、本件証券を呈示して本件物件の引渡方を求めたところ、被告係員はそれが押収中である旨を告げてその請求を拒絶したこと

(ホ)  同年四月一〇日神戸地方裁判所伊丹支部執行吏は、同支部裁判官が同月九日発布した被告主張に係る「執行吏保管」の仮処分決定正本に基き、右営業所においてこれが仮処分の執行をしたこと、及びその執行に際し被告係員は執行吏に対し本件物件については倉荷証券が発行されているから証券を占有せずして仮処分を執行することは不当である旨異議を述べたが、執行吏においては遂に執行を完了したこと

(ヘ)  同月一二日右宝塚地区警察署司法警察員は被告に対し本件物件の仮還付をなしたこと

(ト)  同月二三日附書面で以て被告は本件物件の寄託者である石田勲の代理人と称されていた樋口政治に対し前記仮処分執行の事実を告知し、その書面は翌二四日同人に到達したこと、及びその頃から既に右石田は失踪していてその所在が不明であつたこと

(チ)  同年五月二一日右執行吏は申請人の申出により本件物件を被告の右営業所から搬出した上、神戸市生田区下山手通八丁目四三二番地橋岡正をしてこれが保管を命じたこと、及び右搬出に際しても被告係員は執行吏に対しその不当を主張したが容れられなかつたこと

(リ)  同年六月一日附書面で以て被告は右樋口政治に対し右保管換の事実を通知し、その書面は翌二日同人に到達したこと

(ヌ)  同月七日右伊丹支部裁判官は本件物件について換価命令を発したこと

(ル)  同月一一日附書面で以て被告は原告に対し右換価命令発布の事実を通告し、その書面は翌一二日原告に到達したこと

(ヲ)  同月一五日被告は右伊丹支部に対し前記仮処分決定並びに換価命令に対するそれぞれの異議申立をなすとともに、換価命令執行停止の申請をしたところ、同支部は同月一八日金二六万円の保証を条件としてこれが執行停止決定をしたので、被告において供託の上直ちに担当執行吏役場に当該決定正本を提出しその執行の停止を求めたこと、及び一方原告においても自らこれら一連の執行の不当を鳴らして右支部に訴を提起し、それと同時にこれが執行の停止乃至取消の決定をも得たこと

(ワ)  ところが右執行吏は前記換価命令に基き既に同月一五日本件物件を競売に付し、すべて換価し了つていたので、これが換価処分を未然に防止すべく努めた被告及び原告の右尽力はすべて徒労に帰したこと

(カ)  被告は前記仮処分の執行をうけるや、直ちに顧問弁護士に善後策を問い、同人から倉荷証券所持人にその旨を速かに通告すべき旨の指示をうけた結果、前記のようにその後の事態の変動に応じ右樋口若しくは原告に対しそれぞれそれら事実の通報をなしたものであること

(ヨ)  そして結局本件仮処分は被告のなした前記仮処分異議により不当と認められて取消され、その結果被告は執行吏から本件物件の売得金の交付をうけたが、それを種々清算して被告が原告に交付すべき金員の額を算出した上、被告において原告のため現にこれが弁済供託をなしていること

などをそれぞれ認めることができる。この認定を覆えすに足る資料は何もない。

そこで右の事実関係からして、果して被告において商法第六一七条に所謂受寄物の保管につき注意を怠らなかつたか否かについて判断してみよう。元来倉荷証券を発行した寄託物件については、倉庫営業者としては当該証券と引換でなければその引渡をすべきものでないこと勿論であるが、本件の如く倉庫営業者それ自体を被申請人として発せられた「執行吏保管」の仮処分決定が存在する場合においては、その執行に際し徒らに右法理を固執して強くその執行を妨げることは公務執行妨害罪をも構成すべきものであるから、とりあえず一応その執行を甘受し、然る後法律に従い異議を申立ててその不当を主張すべきこともまた明白である。その意味合からすると、その後になされた執行吏による保管換の執行についてもまた全く同様である。従つて本件において被告が本件物件の保管上注意を怠らなかつたか否かということは、民法第六六〇条にも規定されている寄託者に対する遅滞なき通知がなされたか否かが一つの重要な点になる。そこでこのことについて考えてみるに、被告としては仮処分の執行及び保管換についてはいずれも寄託者である石田の代理人と称される樋口に通知し、換価命令になつて始めて証券所持人たる原告にその通知をしていること前記認定のとおりである。そして本来からいえば前二者についても、当時既に原告が本件証券の所持人となつていたのであるから、何よりも原告に対しその旨の通知をすべき筋合であつて、その頃には既に被告において原告が証券の所持人であることを知つていたであろうということは、前記認定の事実からして容易に推認し得られるところである。しかしながらこの通知もれの点については、前掲乙第一三号証の二、第一四号証と本件弁論の全趣旨とを綜合すると、右事実について通告をうけた樋口その他の関係者から、原告がその頃直接若しくは間接にそれらの事実を聞知したことを窺うことができるのみならず、換価命令について通告をうけている以上、本件物件の滅失と当該通知もれとはその間に格別因果関係を有しないものといわなければならない。そして右一点の落度と見得る点を除いては、前記認定事実からすると、被告は倉庫営業者として本件物件の保管若しくは保全につき尽すべき注意義務は充分尽しているものということができる。それにも拘らずなお本件物件の換価による喪失を防ぎ得なかつたことは、関係者の法解釈の不備、手続の行違い、その他の事由に因るものであつて、法律上所謂被告の責に帰すべき事由に因るものではない。

そうすると被告は原告に対し何ら本件物件の滅失につきこれが損害賠償の責任を負うべきいわれはないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求が失当であること明らかである。

(三)  よつて原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用した上、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂上弘)

目録

倉荷証券の表示

受寄物の種類及び品質  織物(レース)

同 数量        三〇〇瓩

同 荷造の種類及び個数 木箱入五個

同 記号        無記号

寄託者氏名       石田勲

保管場所        日通池田倉庫

保管料         一期一個に付金一二六円五六銭

保管期間        自昭和二八年一一月二〇日

至昭和二九年二月一九日

火災保険金額      金六〇万円

同 保険期間      自入庫時至出庫時

同 保険者       興亜海上火災運送保険株式会社

証券作成地       池田市

同 作成年月日     昭和二八年一一月二〇日

同 番号        大第九四一四号

倉庫営業者       日本通運株式会社

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